浪費・消費・投資 時間の経済学 7つのポイント
6.浪費・消費・投資 時間の経済学 7つのポイント
さて、時間とお金はもちろん違うものなのですが、「使い方」という面で少し似ているところがあるのです。たとえば「浪費」「消費」「投資」という概念に置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。
単純ではありますが、「浪費」「消費」「投資」というこの3つのキーワードを使って時間の性質や使い方について考えてみましょう。「使い方」に着目するのは、「幸せな時間の使い方」に直結する大事な観点だからです。
先の「時間の性質」とともに、この側面がわかるようになると、時間がより身近なものになり、時間の使い方が格段に上手になるはずです。
まずは「時間の浪費」という言葉があるように、私たちは将来のために役に立たないこと(たとえばゲーム、テレビ、ネットサーフィンなど)でムダ遣いをしてしまいがちという点でお金と似ています。また目的を持って積極的に時間を使う「消費」、少し前倒しにして「貯めたり」、人の力を使って「増やしたり」してから時間を使う「投資」という概念も時間とお金の共通点としてあてはまりやすいのではないでしょうか。
一方で時間はそのままでは直接貯めておくことができないため、お金より使い方を工夫し、よりデリケートに扱う必要があります。放っておけば自動的にどんどん時間はなくなってしまいます。だからといって「どうせなくなるなら浪費した方がマシだ」などと投げやりに考えてはいけません。なぜなら時間は「命」なのですから。
ここでは「お金の使い方の概念」を少し取り入れて、これらのことについて話していきたいと思います。
さて、「時間の浪費」というと単なる「ムダ遣い」という意味だと思うかも知れませんが、ここではもう一歩進めて「目的(ゴール)を目指して進んでいるときにうまく使えていない状態」と考えてください。
この「浪費」は大きく2つのパターンに分けられます。1つは「密度が低い」パターン、もう1つは「中断する」パターンです。
(1)密度の低い時間をなくす(ダラダラ・ノロノロ)(浪費)
私たちもよく経験することですが、作業自体やってはいるのですが集中できなかったり、気が散ったり、やる気が出なくてついダラダラと作業してしまうことがあります。
時間をかけたわりには作業がはかどらず「ダラダラと時間を過ごしてしまったなあ」ということになるパターンです。私もよくあります。
「ゆっくり・のろのろ作業している時間」「寄り道作業をしている時間」「モティベーションが低下している状態の時間」「なんとなく作業をやっている時間」は、「作業状態」としてはスキマなく継続しているのですが、ムラがあり、中身がスカスカの時間なので、実働時間としては、「密度の低い時間」となります。
これはおもに精神的な面が大きく、「イヤイヤ感」「やらされ感」「目的がない状態」「ゴールが見えていない状態」「気乗りしない状態」などの原因があります。これは作業の効率が下がり、動いているけれど力が入っていない状態の時間です。このままではスピードに乗れず、ずっとスローペースのままです。
こういうときはなるべく作業を「自分ごと」としてとらえ主体的にすすめること、そして「やること」「やらないこと」をきっぱりと決めて相手を減らすことが大事です。
またこの状態のままだと他のことに気が向いてしまったり、あれこれ考えてしまったりして注意力も散漫になり、間違いが多くなったり、考えがまとまらず思考が行ったり来たりします。結果として時間をかけたわりに成果があがらず、ゴールにたどりつけない場合もあります。
これは大きな「時間の浪費」につながります。でもなかなか自分ではそれに気づかないことが多いので気をつけましょう。
(2)中断・空白の時間をなくす(スカスカ)(浪費)
もう1つは作業が「中断する」パターンです。
何か作業しているとき、あるいはしようとしているときに、「あれがない、これがない」と探したり、「そういえばこれをやってなかったから次にすすめない」「誰かに頼んであったことが終わってないからすすめない」「道具がこわれていて使えない」「あれを買っていなかった」など中断させられることがよくあります。
すると、せっかくペースをつかんでいた作業が止まってしまったり、先にすすめなくなったりして中断し、結果的にゴールにたどりつけないことになります。
この原因はおもに「モノ」や「人」へのダンドリやメンテナンスの悪さにあります。
いわゆる「手待ち時間」もこれにあたり、時間の浪費の1つのパターンになっています。
また、「何もやらない時間」「目的外のことをしている時間」「ものごとを先延ばししている空白の時間」「思考が停止している時間」「スキマだらけの時間」「やることがわかっていないので作業が止まってしまっている時間」「動いていない時間」「スイッチオフの時間」などのまったく動けていない時間も意外と多く、多くの時間を費やしたつもりでも、実働の時間は少なく、成果があがらないことがよくあります。これは「空白の時間」です。
この「密度の低い時間」と「中断・空白の時間」の2つのパターンは日常生活ではよくおこることで、しばしば両方同時におこることもあります。どちらも「見かけの時間」としては作業しているのですが、「正味の時間」はあまり多くなく、結局成果につながらないことになります。これもやはり自分で気づいていないことが多く、ついくり返してしまう行動パターンの1つです。
これらについては後で具体的な対処法をお教えします。
(3)効率良く、上手に使う(ムダなく100%すべて使い切る)(消費)
浪費とは異なり、「目的を持って積極的に時間を使う」のが消費です。そして同じ使うなら時間を「ムダなく全部使う」「100%すべて使い切る」「残らず最後まで使う」ということが大切です。言い換えれば「時間の純度をあげる」とも言えます。なるべく効率よく、上手に時間を使います。
これはおもに「時間の効率」に着目した使い方のポイントです。
待ち時間やタイムロスなどをなくすように、モレ・ダブりなくダンドリをし、なるべく時間のスキマをつくらないように使うのがコツです。つまり「スーツケースのパッキング」や「バケツに砂や石をつめる作業」に似ています。パズルのようにつめ込んでいきムダなく使いましょう。
また、「足ぶみ・アイドリングをしない」「最後までスピードを落とさない」「ムダな作業をやめる」など、設定した時間内すべてをその目的のために100%使い切るということが大切です。
(4)前向きに、楽しく使う(楽しく、アクティブに、エンジョイする)(消費)
また一方で、同じ時間を使うなら「楽しく」「アクティブに」「前向きに」「エンジョイする」ことにより、高い効果、満足感を得るということが大切です。
たとえば、休日は家族のため、家族に喜んでもらうために積極的に使う。あるいは、非日常の体験、経験、心に残る体験、一生ものの経験、お金で買えない付加価値のために楽しく使うなどおもに「気持ちの充実」に着目したポイントです。
そして、せっかくならあれもこれもとつめ込みすぎないで、一点豪華主義で過ごすと印象にも残り、想い出深いものになります。とにかくその時間を「楽しむ」「エンジョイする」ということが大切です。
一生懸命に貯めた時間を楽しいことのために使いましょう。お金と同じように楽しく使うことが大切です。
この「時間の効率」と「気持ちの充実」という要素の両方があってこその「素敵な時間の消費」となるのです。
(5)時間を貯めて使う(今の時間を未来で使う)(投資・貯金)
「時間を貯める」ということはどういうことでしょうか。お金と違って銀行に行って入金し、通帳に貯めておくことはできません。ではどういう意味でしょうか。
一番目は「前倒しで忙しさをならす」ということです。空いている時間がある時に「先のタスク」をやってしまい、後の作業を減らすということです。こうすれば時間自体は増えませんが後が楽になるわけです。
言い換えれば、前倒し(先行投資)で利益確定させるようなものです。そのタスクが必要な時に「もうやってある」ということになっているのです。つまりこの時「貯めた時間を使う」ことになるのです。今使っていない時間を未来のために使って貯めておくワザとも言えます。特に忙しい時期の作業のピークカットにとても有効です。
二番目に「ずらしのワザ」です。たとえば25日にATMに並ばないということです。同じ時間を使うなら、人とずらしてすいている時間にタスクを終えてしまうようにしましょう。朝の通勤時間、お昼のランチ、ゴールデンウィークや夏休みの観光地などもこの方法で負担が軽くなり、大きな時間の貯金になります。(安いときに買っておく)
三番目は「過去の経験の利用・再利用」です。自分が過去に作った書類やフォーマットを再利用したり、過去の経験をうまく使ってタスクをショートカット、あるいは省エネをすることにより、時間を節約します。つまり自分の過去のリソースを使うことにより、時間をショートカットすることになります。(リユース・リサイクル)
このように同じ時間を使うにしても、比較的時間のある時に先行投資して、後で時間を口座から引き出すようにするとよいと思います。
(6)時間を増やす(2倍、3倍にして使う)(投資・貯金)
時間を増やすとはどういうことでしょうか。これには3つの術があります。
一つ目は「分身の術」です。わかりやすく言えば、時間を二重に使う、1つのものごとを動かしつつ別のことをする、ということです。
決して「時短」ではありません。どうせかかる時間を同時に何かに使うというやり方です。「○○している間に」「○○しながら」という形で、「普通なら2回かかってしまう時間を1回にまとめる」「どうしてもかかってしまう時間を動かしながら別の作業を進める」訳です。利益の二重取り、人生を2倍生きるともいえるでしょう。たとえば、「お湯をわかしながら、身支度をする」などがこれにあたります。「コピーしながら」「歩きながら」「電車に乗りながら」「誰かを待ちながら」「並びながら」「乾かしながら」などもあります。
さらに上級技として、「ブーメラン、お手玉、ジャグリング、キャッチボールの術」という技があります。相手にタスクを投げておいて受け取るまで別のことをするということです。自分はひとり、手は2本と決まっていますが、うまく空中に投げておいてキャッチする腕前が上がれば、いくらでも相手(タスク)を増やすことができます。
二つ目は、「一筆書きの術」です。「ついでの力」を使って1回でものごとを済ます方法です。これは、動線を考えてダンドリをするという単純なことなのですが、出張や外出など出かけた時に一度拠点や職場に戻らず、帰るまでにいくつかのタスクを済ませてくるワザで、家の中の動線や買い物などにも有効なワザです。2回出かける分を節約し、1回分の労力・時間で成果を出します。上級ワザで、「最初に勉強する時間で実際のテスト対策まで一度にしてしまう」などというものもあります。
三つ目は、「夜討ち朝駆け」です。夜と朝の時間を有効に使うことによって、人の2倍、3倍の効果をあげることができます。自分自身がその時間に何かをするというのではなく、「投げられるボールはあらかじめ前の日に投げておく」「受け取り・確認作業は朝一番でやってしまう」ようにすると、自分の手からはなれていても自分が動いたのと同じ効果があり、結果的に相手より2日分有利にものごとが展開できます。「夜のうちに何かを依頼しておいて、朝までに結果を受け取る」「朝一番に連絡が取れるように夜のうちにメールをしておく」など簡単なことなのですが、自分時間が格段に増えます。先にひとテマかけておいて後の時間を増やすというわけです。
こうして時間を増やすことができるのです。
(7)人の時間を買う(時短、サービス、ノウハウ)(投資)
最後に、人の時間を買うことにより自分の時間を増やすという考え方があります。これには3つのパターンがあります。
一つ目は「時間自体を買う」、つまり「時短」です。交通手段はより早い方を選ぶなどがこれにあたり、移動時間を短くし、結果的に自分の時間を増やしていくという方法です(物理的時間の増加)。
もっともわかりやすく、自分の時間を売ったお金でより長い時間を買うというスタイルです。自分の時間を売って得たお金をより大きな時間を得られるように使うという意味で「投資」といえます。
二つ目は、「サービスや製品を買う」ということです。つまり人から「テマヒマやコスト」を買うのです。
自分でそのことを成し遂げるよりも、「お金を払うことによって直接サービスや製品を買ってしまう」のです。商品、食事、サービスなどを買い、自分は大きな満足、喜び、楽しみ、充実感、安全、安心、上質、効果、成果などを得ること、またさらに「お金で買えるもの」は買って、その先にある「お金で買えないもの」のために自分の時間を使うというのがこれにあたります。(精神的な充実の増加のための専門家サービス)
三つ目は、「ノウハウを買う」ということです。本、セミナー、教育、習い事など誰かの知識や知恵、技術などのノウハウや人生などをお金を払って短時間でエッセンスを得ることができます。話を聴いたり、教わったりすることにより、間接的に買うことができる、そういう意味で投資といえます。
いずれにしても時間を「どう使うか」ということが大切で、「時間を使わないこと(節約・倹約)」や「単に貯蓄をすること」自体が美徳ではないのです。お金と同じで、時間の使い方にはその人の品格や人格、生き方があらわれるのです。
『人生を豊かに生きるための7つのトリセツ』セルバ出版 岩下敦哉著 より引用