ミスター定時のダンドリ時間術
第一章 ミスター定時のダンドリ時間術
【1】★★ダンドリの定義はいろいろある
「ダンドリ」の語源はいくつかあるようですが、歌舞伎の用語で、話の区切りや一幕のことを「段」と呼んでいて、その芝居の筋や構成のことを「段取り」と呼んでいたという説、坂道に石段を造る時に、その坂の勾配から石段の段数を見積もることを「段を取る」と言って、石段全体の仕上がりを評価する時に「段取りが良い、悪い」と表現したことに由来するという説があるようです。
「ダンドリ」の定義はいろいろありますが、辞書などからいくつか引用します。
【広辞苑】
1 芝居などで、筋の運びや組立て。花暦八笑人「初手がきたなくつて、ぐつときれい事になるといふもんだから―はびつくりだらう」
2 事の順序・方法を定めること。「仕事の―をつける」
3 心がまえをすること。工夫すること。
【新明解国語辞典】
物事を段階を追ってやっていく手順。
「―を決める/―をつける/―がつく/結婚の―」
【大辞林】
1 事を運ぶための順序。事がうまく運ぶように,前もって手順をととのえること。手はず。「―をつける」「うまく―する」
2 芝居・小説などで,筋の運び。
【コトバンク】
1 芝居などで、筋の展開や組み立てのしかた。
2 物事を行う順序や手順。また、その準備。「式の段取りをつける」
【ピクシブ百科事典】
1 芝居などで、筋の展開や組み立てのしかた。
2 物事を行う順序や手順。また、その準備。「式の段取りをつける」
あわせて、私がよく使っている説明も挙げておきます。
1 心の中になんとなく漠然と想い描いたことを具体的な結果として実現させるための手順や道
2 「目的を果たすため」「ゴールにたどり着くため」「目標を達成するため」に全体を把握し、期日までに確実に遂行するための手順
3 ものごとをうまく実現させるための手順や道のり
いずれにしても、想定している場面や対象により、少しずつニュアンスが違う表現となっていますが、概ね同じようなことを言っています。
【2】ダンドリには最低限3つの役割がある
「ダンドリの役割」は、つき詰めてシンプルに言ってしまうとこれだけです。
①必ずゴールにたどり着き、目的を果たすこと。
②必要十分の品質、出来栄えで結果を出すこと。
③締め切り、納期に間に合わせること。
「ダンドリ」はこのためにあり、このために組んで、実行していくのです。
そしてその結果、どれだけ価値の創造ができたか、どれだけ満足できたかが大切なのです。
【3】ダンドリの対象となるものは何か
ダンドリの対象となるものは、マネージメントの基本となる「タスク」「スケジュール」「チーム」、つまり「コト」「時間」「ヒト」です。
言葉にすると、「やること」を把握し、自分の「持ち時間」の中で、「関係者」と調整・協力し、ゴールにたどり着くミッションなのです。
それぞれの対象について、状況や条件を把握し、適切なツールや手法を使って、現状に見合った適切なアプローチをかけ、必要十分な結果を期限内に出すプロセスとも言えます。
【4】2つのダンドリを意識して区別する
ダンドリには大まかに2つのダンドリがあります。
どの表現を使っても良いのですが、「大きなダンドリ」と「小さなダンドリ」、「流れのダンドリ」と「作業のダンドリ」、「プロジェクトのダンドリ」と「タスクのダンドリ」があります。
どれもほぼ同じ意味で使っているのですが、「全体的なダンドリ」と「個別・具体的な細かなダンドリ」に頭の中で区別して考えるととてもシンプルでわかりやすくなります。
まず、全体的な流れを俯瞰的に考え、条件に合わせてタスク選別やスケジュール配分の枠組みをつくっていきます。そのあとに各タスクごとの手順や実施日、リソース配分など細かなところの設定をしていくという手順で考えます。
ダンドリが「頭の中でごちゃごちゃになってしまう原因」の一つに、この2つのダンドリが混同されている場合がありますので、意識的に区別してみると効果的かと思います。
【5】誰でもみんな、日々上手にダンドリを組んでいる
「ダンドリは難しい」と感じている方も、実は日々の生活の中で上手にダンドリをとっているのです。
たとえば「旅行のダンドリ」です。
「大きなダンドリ」としては、「何のためにどこへ行こうか」「いつ何泊で行こうか」「誰と行こうか」などをまず考え、「何しようか」「どうやって行こうか」「予算はどうしようか」「どこに泊まろうか」「何を食べようか」「持ち物は」・・・などと計画を立てていきます。
次に「買い物のダンドリ」です。
「何を買う必要があるか」「どの店に行こうか」「いつ頃行こうか」とまず全体的に考え、「今日の献立はどうしようか」「ストックがなくなったものはないか」「どの順番でどの店に行くか」「予算は足りるか」「安売りしている店はどこか」「荷物は持ちきれるか」など細かな具体的なことを考えます。
学生時代にしていたのが「勉強のダンドリ」です。
試験前になると、「どの位の点数や出来ばえを目指すか」「いつ頃から試験勉強を始めるか」「どのぐらい勉強するか」などまず全体的なことを考え、「どの科目をどの位勉強するか」「何日にどの科目をやるか」「どの教材のどこを重点的にやるか」「どの範囲をやるか」などを具体的な計画に落とし込んでいきます。
それぞれそれほど悩まずに「何となく」今までやって来ていることですが、「私はダンドリを組んでいます!」という強い気持ちで意識的に取り組んでいるわけではないと思います。
それでも「それなりに」ダンドリを組んでやりこなしているのです。
ただ、「仕事のダンドリ」とあらためて考えることになると、「難しい」と感じてしまうことがあると思います。
そこで、ごくシンプルに「一般的な」仕事のダンドリのフェーズについて例示してみます。
【6】ダンドリの流れには12のフェーズがある
オフィスでの一般的な仕事のダンドリをシンプルにならべてみると次のようになります。自分自身のプロジェクトやタスクにあてはめて想像してみてください。
①目的・ゴールの確認・決定をする。
②「全体像」と「やること」の確認をする。
③「やること」すべてを一か所に集める。
④その中から「やること」と「やらないこと」を選別する。
⑤「やること」の中で、「やる範囲」を必要十分にしぼる。
⑥手法、やり方、手順、工程を決める。
⑦スケジュールを決める、時間割をつくる。
⑧実行準備をする。条件、リソース、ツールなどの確認、コミュニケーションの確認、リスクヘッジをし、用意周到・準備万端整える。
⑨タスクの実行をする。モレダブリ、先のばし、中断、時間泥棒、ロスタイムなどに注意する。メンタルワークロード、ワーキングメモリーの負担を減らす。
⑩トラブルシューティング・アクシデント・ミス・エラー対応をする。
⑪品質確認・出来ばえをチェックする。
⑫納品・対応終了・タスク完了・プロジェクト完遂・目的達成・ゴール到着・目標到達・ 作品完成
この時、時系列の前半・後半で、大まかに「決定フェーズ」と「実行フェーズ」に分けて考えると頭の中がスッキリします。
「決定フェーズ」は、①何をやるか→「やること」、②どうやるか→「やり方」、③いつやるか→「やる時」を決めるフェーズ。「実行フェーズ」は、④実施準備、⑤タスク実行、⑥実行結果確認、をするフェーズです。
【7】それぞれのフェーズごとの注意点
①目的・ゴールの確認・決定をする。
まずは、「何をするか」「何のためにするのか」「どうありたいか」といったプロジェクトの目的・ゴールの確認・決定をします。
②「全体像」と「やること」の確認をする。
そして、プロジェクトの「全体像」を俯瞰し、「やること」を把握します。
③「やること」すべてを一か所に集める。
プロジェクトにおいて「やること」すべてを一か所に集め、ヌケ・モレ・ダブリがないようやること・タスクをすべてを一か所に集めます。
④その中から「やること」と「やらないこと」を選別する。
その中から「やること」と「やらないこと」を選別します。条件確認をし、できる・できないを判断、やらないことは捨てる、ムダなこと・余計なこと・意味のないことはしないと決め、タスクの数を減らします。
⑤「やること」の中で、「やる範囲」を必要十分にしぼる。
「やること」の中で、「やる範囲」を必要十分にしぼります。その際、なるべく楽になるように行う、100点・満点を目指さない、及第点・80点・70点でよい、過不足なく行うが、不要なことをなるべく削ぎ落し、やりすぎ・過剰品質をなくすなど、出来ばえ・クオリティを必要十分に絞り込むこと、さらに納期にゆとりを持つことに注力します。
⑥手法、やり方、手順、工程を決める。
「どうやるか」「どのように進めるか」など、プロシージャ-シートやガントチャート、マニュアルなどを駆使して手法、やり方、手順、工程を決めます。「工程」や「手順」を確認し、分けたり、並べ直したり、道しるべやマイルストーンを置く作業をします。
⑦スケジュールや時間割をつくる。
ゴールから逆算して、「所要時間」や「持ち時間」を確認し、具体的なスケジュールに落とし込んでいきます。
⑧実行準備をする。
ヒト、モノ、カネ、時間、場所、情報、道具、リソースの確認・割当て、人的手配、手段、材料など条件の確認、コミュニケーションの確認、手配、調整・チューニング、調査、伝達、調達、仕掛け・仕組みづくり、リスクヘッジをし、用意周到・準備万端整えます。
⑨タスクの実行をする。
モレダブリ、先のばし、中断、時間泥棒、ロスタイムなどに注意しつつメンタルワークロード、ワーキングメモリーの負担を減らし、具体的なタスクを実行をします。
⑩トラブルシューティング・アクシデント・ミス・エラー対応をする。
タスクを実行しながら、トラブルシューティング・アクシデント・ミス・エラー対応をしていきます。
⑪品質確認・出来ばえをチェックする。
仕上がりの直前までに、品質確認 出来ばえの確認・チェック、検証・フィードバックをします。
⑫納品・対応終了・タスク完了・プロジェクト完遂・目的達成・ゴール到着・目標到達・ 作品完成
最後に、納品 対応終了 タスク完了 プロジェクト完遂 目的達成 ゴール到着 目標到達 作品完成となります。
【8】まとめ
とてもシンプルですが、これが私の考える「ダンドリ」です。
ここまで、ダンドリの語源、定義、3つの種別、対象、大きなダンドリと小さなダンドリ、日々行っているダンドリ、12のフェーズと注意点について整理してみました。
これで、ダンドリについて頭の中ではスッキリ整理できたのではないかと思います。
【9】ダンドリ7つの奥義
ダンドリは人により様々な流儀や流派があり、どれが正しいということはありません。私もいろいろ試行錯誤してみましたが、今も使い続けている「技」がたくさんあります。その中でよく使っている「7つの奥義」をお教えします。
①夜討ち朝駆け
職場の退出時刻までに、相手に成果物、仕事、次の指示、相談、報告、連絡事項、依頼事項などを投げかけておいて、翌朝までに進捗や状況、結果の報告をしてもらうと、朝からトップスピードで自分の仕事が始められるというダンドリ。
②お手玉キャッチボール
お手玉やキャッチボールは、自分のスキルや能力次第でいくらでも球の数を増やせる。自分の作業ならお手玉、相手がいるならキャッチボール、球から手が離れている間はいくつでも相手やタスクを増やせるので、どんどん投げておくというダンドリ。
③叩き台たたきたい
人は叩き台があると叩きたくなるので、落としどころの20~30%引きのプランを3つ程度用意しておき、相手の意志で、あるいは相手と一緒に選んだりつくり上げた形をとって、ほぼ落としたいところに着地、即決させてしまうダンドリ。
④コロンボトーク
刑事コロンボのように、「ついで」「つけたし」「カクニン」「つぶやき」などで、相手の見えない心の不安、心配、恐怖、不完全、過ち、苛立ち、後悔、疑問などを暗にほのめかし、心の中に小さな種を蒔き、別れた後で相手の心の中で発芽、成長させ、大きくなったところで、あらためて指摘し、体を崩してこちらの思うように技をかけるダンドリ。
⑤マジカルチョイス
あらかじめこちらの落したいところに近い選択肢をいくつか用意しておき、相談しながら相手に決めさせた体をとって、自分の思った範囲に落としていくダンドリ。
⑥ツバメがえし
交渉において、一言目は相手にかわしやすいダミーのトークを仕掛けてスキを与え、間髪入れずに切り返しの二言目で核心をついて相手にとどめを刺すダンドリ。
⑦巻き込みチーム
同じ部署の人だけでなく、同じ組織の他部署の人、外部の関係者、協力者もチームとして自分のプロジェクトに「当事者」として巻き込みプレインやメンバー、サポーターとして協力を得るダンドリ。
『ミスター定時のダンドリ時間術』岩下敦哉著 より引用